文献要旨(年の順)
要旨1.大谷洋子(1989)「擬態語の特徴」『日本語教育』68号
擬態語は日本語特有の表現であると言われる。形態においても、表象内容のありかたにおいても、日本語の音韻体系及び日本的感性と深く係り合い、日常の身近な口語表現に愛用されている。日本人にとっては自然な言語活動の一部で、それなしではすまされないものであるが、それだけに外国人の日本語学習者にとっては難物の一つであると思われる。そこで、まず日本人自身が擬態語をどう考え、どう扱っているか、八つの辞書その他から探ることから始め、日本語をとりまく最近の動きにも触れてきた。こうした擬態語の特徴について、形態面と表象内容の両面から考察し、さらに擬態語を教えるには、やはり日本人自身が擬態語について詳しく知っている必要がある。普通語を教える場合のように学習者のもつ言語の予測能力・類推能力等をあてにはできないとすると、擬態語そのものへの内容的興味をきっかけにして、理解してもらうより外にないからだという意見を加えた。
要旨2:三上京子(2003)「上級教材に見られるオノマトペ―統語的特徴の分析と指導の観点―」『早稲田大学日本語教育研究』第二号
日本語教育の初級ではあまりオノマトペを指導対象となっていない。ところが、中上級になると、学習者は突然多くのオノマトペに出会い戸惑うことが多いのも事実である。ところで、これまでのオノマトペに関する先行研究においては、様々なオノマトペの意味的、形態的、音韻的考察はなされていた。しかし、学習者がオノマトペを理解語彙としてだけでなく使用語彙とするためには、それぞれのオノマトペの意味を理解させるだけでは不充分で、それらが文中でどんな形でどの語とともに用いられるかという統語的観点からの考察と記述が必要となるはずである。そこで、本稿では、日本語上級教材に見られるオノマトペを後続句との関係から統語的に考察・分類することを試みた。更に、日本語の表現においてオノマトペがいかに重要な役割を果たしているかを改めて認識させられた。その上で、それらの結果を上級におけるオノマトペ指導という観点から眺めてみた。
要旨3:呂佳蓉(2004)「比喩としてのオノマトペ-ころころと圆滚滚」『日本語認知言語学会論文集』4
オノマトペの比喩性は二段階に分けて考えることができる。通常、音象徴といわれる段階と、オノマトペの用例自体が比喩的な用法という段階とがある。本稿では、オノマトペにおける第二段階の比喩的用法の理解プロセスを心理学的/認知言語学的知見から解明しようとした。要するに、具体例「ころころ」と「圆滚滚」を取り上げて、認知言語学的なアプローチにより、日中の、意味的に似たオノマトペについて概観してきた。共通点としては、両者はともに具体的な様態から抽象的な表現まで広い範囲をカバーしており、イメージ・スキーマによって支えられたメタファーとメトニミーリンクが観察された。オノマトペにおける比喩理解の普遍性が見られた。相違点としては、中国語のオノマトペにおいては、温度の語彙と結合し、より抽象的な複合メタファーができあがるということがわかった。最後に、スキーマの「図式化」の有効性について触れて置いた。
要旨4.徳田恵(2006)「読解における未知語の意味推測と語彙学習」『第二言語習得・教育の研究最前線』
読解中学習者が知らない語―未知語に遭遇した時、どの程度推測できるのか、それがどの程度語彙学習に結びつくのかなど、未知語の推測については意外に知られていないのが現状である。そこで本稿では、①未知語の意味の推測課程②推測と語彙学習の関係③推測の問題点④推測に関わる指導の効果の四点について論じることとする。そして最後にこうした読解における未知語の推測に関する研究概観を通して、日本語学習者を対象とした語彙教育への示唆し、ストラテジーの指導や語の構成要素に関する知識を教授することが非常に重要であると言える。また語彙学習研究への課題について、①日本語学習者がまとまった文章中で未知語をどう処理するのか、②意味が不透明な漢字語彙の場合には同じ手続きでよいのか、平仮名や片仮名で表記されている場合にはまた特別な指導が必要なのかなど今後実践と実証研究を進めていく必要があると考える。
要旨5:三好裕子(2007)「連語による語彙指導の有効性の検討」『日本語教育』134号
語と語の共起関係の知識は語の使用に必要とされ、近年英語教育では重要視されている。連語は「慣習的に共起する語と語の結びつき」を意味するが、この連語を取り入れた語彙指導の効果は、日本語教育では確かめられていない。特に意味の範囲で自由に結びつく「お茶を飲む」「本を読む」のような自由結合と呼ばれる緩やかな結びつきを、連語として指導した場合の効果は不明である。筆者は、自由結合を連語として扱い、単語の意味による指導との比較により、連語による語彙指導の有効性を検証する実験を行った。その結果、目標語及び共起する語のいずれにおいても、連語による指導のほうが高い成績を示し、有効性が確認された。その要因として、塊で覚えることの効果や記憶における符号化方略の使用の促進、意味のみによる指導では共起関係の知識を得にくいことなどが考えられた。また、日本語能力の低い学習者に、より有効であることも推察された。
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